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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)12410号 判決 1970年6月04日

原告 東京美装興業株式会社

右代表者代表取締役 八木祐四郎

右訴訟代理人弁護士 忽邦寛

被告 千成不動産株式会社

右代表者代表取締役 東出まさ

右訴訟代理人弁護士 毛受信雄

同 田中学

参加人 金井満こと 金永培

右訴訟代理人弁護士 柴田憲一

主文

1、原告の被告に対する請求を棄却する。

2、参加人と原告との間において、参加人が被告に対し、訴外ボア・シャポー株式会社と被告の間の昭和四一年八月一日付東京都中央区銀座八丁目九番六号所在鉄筋コンクリート造九階建第二千成ビル四階の賃貸借契約に基き、同訴外会社が被告に交付した入居保証金三九二万円の内金二二七、七三三円の返還請求権を有することを確認する。

3、被告は参加人に対し、金二二七、七三三円及びこれに対する昭和四四年一一月二二日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

4、訴訟費用は、参加人に生じた費用は原被告の平等負担とし、被告に生じた費用の二分の一は原告の負担とし、その余は各自の負担とする。

5、この判決の第三項は仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

1、被告は原告に対し、金二二七、七三三円及びこれに対する昭和四四年九月六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

3、参加人の請求を棄却する。

4、この判決の第一項、第二項は仮りに執行することができる。

(被告)

1、原告の請求を棄却する。

2、参加人の請求を棄却する。

3、訴訟費用は、参加により生じた訴訟費用は参加人の負担とし、その余は原告の負担とする。

(参加人)

1、主文第二、及び三項と同旨の判決及び第三項につき仮執行宣言。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、原告の請求原因

一、訴外ボア・シャポー株式会社は被告に対し、被告所有の東京都中央区銀座八丁目九番六号所在の鉄筋コンクリート造九階建第二千成ビル四階の賃貸借契約に基づき、同訴外会社が被告に交付した入居保証金三九二万円の返還請求権を有していたが、原告はそのうち金二二七、七三三円の債権(以下本件債権という。)につき、差押並びに転付命令(東京地方裁判所昭和四四年(ル)第四、〇二三号)を得、右命令正本は昭和四四年九月五日、訴外会社に、同月四日に、被告に、それぞれ送達された。

二、訴外会社と被告との間の前記賃貸借契約は昭和四四年七月三〇日合意解除し、訴外会社は同日前記建物より退去したことにより本件債権の期限は到来し、被告はこの事実を知った。

三、よって原告は被告に対し、金二二七、七三三円及びこれに対する本件債権の期限到来後であり、右転付命令の効力発生の翌日である昭和四四年九月六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三、原告の請求原因に対する被告の答弁

原告主張の請求原因事実はすべて認める。

しかし、訴外会社が被告に対して有していた金三九二万円の右債権につき、昭和四三年三月二八日、訴外会社と参加人との間で、弁済の際には、被告から直接参加人に支払わせる旨の契約が締結され、同日被告はこれを承諾した。よって被告は本件債権の正当な権利者が原告であるか参加人であるかを確知しえないので、原告に対して支払いをなしえない。

第四、参加人の請求原因

一、訴外会社は被告に対し、原告の請求原因第一項記載の金三九二万円の債権を有していたが、参加人は昭和四三年三月二八日、訴外会社から右債権を譲り受け、同日被告は書面で右債権譲渡を承諾した。

参加人はこの承諾書につき、同年四月二日、公証人役場において確定日付を得た。

二、原告の請求原因第二項と同じ。

三、原告は本訴において、本件債権につき転付命令を得た旨を主張して被告に請求をしている。よって、参加人は原告に対し金三九二万円の右債権の残額である金二二七、七三三円の債権が参加人に帰属することの確認を求め、被告に対しては、右金額及びこれに対する本件債権の期限到来後である昭和四四年一一月二二日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第五、参加人の請求原因に対する原告の答弁

一、参加人の請求原因第一項の事実は知らない。

仮りに参加人主張の事実が認められるとしても、入居保証金の返還請求権は賃貸借契約終了及び退去明渡済み等契約所定の一定の条件の成就により発生する停止条件付債権である。このような債権の譲渡も無効ではないが、譲渡が効力を発するのは停止条件の成就のときである。譲渡につき対抗要件を具備していても、譲渡及び対抗要件が効力を発するのはやはり停止条件成就のときである。

本件の場合訴外会社が賃貸借契約の合意解除により右建物部分から退去して被告に明渡したのは昭和四四年七月三〇日であるから、右債権譲渡及び対抗要件が効力を発するのはこの時である。

二、(原告の主張)仮りに参加人の請求原因第一項記載の事実が認められるとしても、

(1)  原告は、本件債権につき原告の請求原因第一項記載のとおり差押転付命令を得、右命令正本は訴外会社に昭和四四年九月五日に、被告に同月四日にそれぞれ送達された。

(2)  これに先立ち、原告は昭和四四年六月一三日東京地方裁判所において、本件債権につき債権仮差押命令を得た。

(以上(1)(2)の事実については被告も参加人もこれを認めている)

(3)  よって参加人は原告に対して、同人が債権譲渡を受けたことを対抗しえない。

第六、参加人の請求原因に対する被告の答弁

(被告)

一、参加人の請求原因第一項のうち、被告会社が被告に対し、参加人主張の債権を有していた事実は認める。その余の事実は不知。

被告は、昭和四三年三月二八日右債権につき、弁済の際には被告から直接参加人に支払わせる旨の訴外会社と参加人との間の契約につき、承諾を与えた。

(被告の主張)

昭和四三年三月二八日、訴外会社と参加人との間において、右金三九二万円の債権につき、弁済の際には、被告から直接参加人に支払わせる旨の合意が成立し、被告は同日このことを承諾したが、その後原告の請求原因第一項記載の債権差押転付命令の正本が、昭和四四年九月四日被告に送達された。被告は本件債権につき、いずれが正当な権利者であるかを確知しえないので参加人の請求に対して支払をなし得ない。

第七、証拠関係

本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりである。

理由

原告の請求原因第一項及び第二項ならびに参加人の請求原因第二項記載の事実は三当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によれば昭和四三年三月二八日訴外ポア・シャポー株式会社において、同会社が被告に対して三九二万円の入居保証金返還請求権を参加人に譲渡したこと、同日頃この譲渡につき債務者である被告が書面をもって承諾をなしたこと、ならびにこの承諾書につき、参加人が同年四月二日公証人役場において確定日付を得たことが認められる。

そこで入居保証金の性格について考えるに、弁論の全趣旨からすると、本件の入居保証金はその名称が異るけれども、その実質は、敷金に外ならないものとみるべきである。そして、賃貸人が敷金を受領したときは、反対の特約のない限り、賃貸人は契約が終了し、賃借物の、返還時において、賃借人に債務不履行がなければその交付された金額を、不履行があれば交付額から延滞賃料、損害金等を控除した残額を賃借人に返還する義務があるものとされる。ゆえに敷金返還請求権は、不確定期限附債権として、敷金交付のときに成立するが、その金額は賃貸借の終了によって明渡の時点に確定するものということができ、また、賃貸人は明渡の翌日から遅滞に陥るものと解することができる。そしてこのような不確定期限附債権である敷金債権は、かの停止条件附債権と同様に、その不確定期限の到来前においても譲渡が認められるものと解すべきである。

したがって、参加人が右不確定期限の到来前である昭和四三年三月二八日訴外会社から譲受けた前記債権譲渡は有効である。そして、本件債権が参加人に譲渡された後に、原告はこれにつき、仮差押えをなし、その後間もなく転付命令を受けたが、参加人は、前示のように、右仮差押に先立って債務者である被告の承諾書につき確定日付を得ているのであるから、右債権譲渡は原告の取得した転付命令に優先し、結局、原告は本件債権を取得しなかったものと言わなければならない。

右の次第であるから、原告の被告に対する請求は理由がなく、参加人の原告および被告に対する各請求はいずれも理由があることになる。よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条及び第九三条を、仮執行の宣言につき、同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊東秀郎)

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